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2023-11-17

負け戦なら百戦錬磨

古市拓真

最後の雑感という事で、この一年を振り返ります。

「All Out For Emergence」

Bullions2023始動時の会議で決めた今年のスローガン。「All Out」は郷中が、「Emergence」は自分が出した要素だったと記憶している。辞書を引くと「Emergence」は困難からの脱却、台頭、創発の意味である。古くは緊急事態といった意味でも用いられていたようだ。新チーム始動時といえば、プレイヤー12人、最上級生も2人と、一部昇格はおろか部の存続まで危ぶまれていた状況だった。そんな危機的状況下で、部員全員がそれぞれの特性を最大限に発揮し、連関することで、個の総和で劣る相手にジャイアントキリングを創発し再び一部に返り咲く、部としても再興する。そんな筋書きから決めたスローガンだった。

そのスローガンのもと副将として自分がなすべきことは、①試合への出場に拘わらず部員全員の特性を理解し、それを最大限発揮出来る環境(ポジションや練習環境、成長するための方向性を助言する事等)を作ること②個の総和では敵わない相手に対して、個を繋ぎ合わせ、チームとしての勝利を創発する手段、すなわち戦略を練り、戦術として整備し浸透させることだと考えていた。

自分の能力を発揮出来る環境であれば成長を実感しやすく、モチベーションも高まるだろうし、1vs1では敵わない相手でも2vs1が生じやすい状況を作り出せれば勝てる。個の質を高めつつ質的優位性に数的優位性で対抗する。

未経験者の多い東大がもし今後一部、更には一部の上位に食い込んでいくことを夢見るのであれば、幼い頃からホッケー漬けの生活を送ってきたホッケーエリート達に対して、(個の最大化は前提とした上でそれでも埋めきれない)個の不足をどう組織力で上回るかという部分は避けて通れない部分であり、時間をかけて検討を重ね、部に遺す価値のある分野だと考えた。チームスポーツをやる以上、個人勝負の結果の集計で勝敗が決まるようなチーム設計に面白みを感じなかった。

個を最大化する組織づくりと、個を有機的に結ぶための戦略を〜といっても、まずは「こういう特性を持った部員がいる」という現状理解と「こういうホッケーをやりたい」という哲学が必要だ。それがあった上でその実現のために必要な能力を洗い出し、足りない部分を練習メニューに落としていく。

春季の時点ではプレスを軸に失点を減らしつつ、ポジティブトランジションから短い手数でアタッキングサードまで侵入し得点を目指す、というあまりボールを扱う能力を必要としないゲームモデルを採用した。個人能力が伸びてくるであろう秋季リーグでは自分たちでボールを保持しながらプレスを崩し「能動的に勝つ」スタイルへの移行を目指していた。

しかし、蓋を開けてみると、春リーグを通して人数不足やチーム内でのモチベーションのばらつきから練習・試合を通してハードワーク出来る選手が少なく、戦術の浸透も不十分で作戦を遂行しきれない試合が続いた。反省や自主練を行う人も限定的で個の差が浮き彫りになった敗戦ばかりだった。

幹部として、「やろうとするホッケー」に求められる能力への解像度が不十分で、細かい粒度まで落として練習や強度設計に組み込めていなかったことや、部員各々に適した環境作りが上手く出来なかったことの結果だと思う。

ホッケーという競技を体系的に理解するための勉強について、昨年からある程度はやっていたものの、特にフォーマットがある訳ではなく、手探り状態であった。ひたすら日本リーグと練習ビデオと戦術サイトを見て独学で導き出した結論が多かったので、簡単に部員に強制できるほどの自信が持てなかった。技術面と戦術面は本来別モノだが、1プレイヤーとして特段優れた技術を持つ訳では無い自分が、オフ・ザ・ボールの動きやポジショニング等についてしつこく言ったところで受け入れて貰えるのか、誤った考えを押し付けていないかといった不安もあり、チーム内で共通認識が形成しきれてないのは感じていたものの有効な手立てを講じることが出来なかった。

また、個人としても、春休みに股関節を故障し、以来春リーグ中はまともに練習が出来ずにスキル面の成長を実感できないまま試合を消化するという苦しいシーズンだった。春リーグが終了する前に幹部体制が崩壊しかけるなど様々な要素が重なって心身共に限界を迎え、生まれて初めて入院する羽目にもなった。

春リーグが終わり、秋リーグ前の夏休みを迎えた。散々OBの方々から指摘された戦術実行の前提となるパスレシーブの基礎技術を鍛え直しつつ、ゲームモデルを再構築した。「押し込む」コンセプトのもと、相手陣にボールがある時間を長くし、強度の高いプレスから精度の高いショートカウンターで得点を目指した。

スキル面以外の春リーグの大きな反省点は二つだった。一つは戦術やゲームモデルの質もさることながら、チーム内での浸透が不十分で共通認識が出来ていなかった事、もう一つは部員のやる気を引き出しきれなかった事だ。前者については直感的に理解しやすく、何度でも振り返れるような文字ベースではなくビジュアルベースの資料を作り、試合中の各場面フェーズにおける優先順位を明確化して原則の解像度を上げつつ、練習内でゲームモデルと地続きであることを認識させるメニューを組んだ。質に関しても、春の時点では自分の経験した事の無いMFやFWのポジションに関して理解が浅く、ゲームモデル内のBupからフィニッシュにかけての理解が浅かったが、春を経て一定理解が深まり、積極的に口出しするようにした。中々意図が浸透しないときは過去のBullionsのアカウントをひたすら漁って見つけた権威が語る動画を用いて伝える人を変えた。後者については個別に話を聞いて不満を吸い上げたり、時間をかけて個人面談を行い、動画を見ながら具体的な成長への道筋を示したり、GPSデバイスを通してその人の身体的特性を理解し、能力を発揮しやすいポジションを探したりしてモチベーションの向上を図った。

幹部ミーティングのやり方を見直して幹部内での意識統一を図ったり、春リーグの結果を受けてモチベーションの上がった人が出てきたり、やる気のある一年生が大量に入ってくれてチームに活気と競争が生まれたり、スタッフが入ってくれて練習・運営のマネジメントが回るようになったり、Bインカレでチーム全体に危機感が生まれたり、様々な要素によって何もかも手探りの状態から少しずつチームとして機能するようになっていった。

秋リーグ。内容としては課題の残る試合ばかりだったが、何とかプール戦を1位で突破し、襷戦を迎えた。個人としては、入れ替え戦の切符のかかった大一番ではあるが、ここまでのプール戦で消極的なプレーが多く、全力を尽くしきれない試合が続いていたため、中盤化など自由な動きをして、楽しんでホッケーをすることを目標に臨んでいた。

個人能力で劣る相手に対して、ある程度Bup・プレスの戦術はハマっていたように思う。Bupで通ると思ったコースはそれなりに通せていたし、相手の強みを消すプレスから整備してきたカウンターが通用しているシーンも一定あったように思う。しかし、マーク強度やフィニッシュの場面の意識共有不足などが穴となり、敗北した。普段の試合に比べ全力を尽くし楽しむことができたと思うが、結果として一部昇格の夢は途絶えた。

プール戦で苦戦を強いられた一橋との順位決定戦が残っているが、勝利できたとしても最早大団円という感はないかもしれない。

しかし、負け惜しみのように聞こえるが、元々何か明確な意味を求めてホッケーを始めたわけではない。同期は1人しかいなかったし、ホッケーの競技性にピンと来たわけでもないし、当時の部の目標だった2部優勝1部昇格が刺さったわけでもなかった。当時のホッケー部という今後ある程度難しい時期を迎えることが予期される環境を経験して、数年後の自分がどのように変容しているかを想像できなかったので、ある種の逆張りと興味本位で入部したような気がする。取り敢えず人より一年短い期間しか在籍できない事は確定していたので、仕方なく時間の限り自主練することに決めた。初めてみると思いの外奥が深かった。

夜遅くまで自主練したり1ピリオドに1時間ずつかけながら試合反省したり、休日に何時間もビデオを見たり、と恐らく大半の人より多くの時間をホッケーに割いてきた。チームの勝利や、出来なかったプレーが出来るようになったり、見えなかった視点でホッケーを見られるようになったり、チームが良くなっていったり…といった改善・成長が楽しくてやっていた面が大きいが、それが直接活かされるのはホッケーの中だけだろう。勿論短期的には勝利や改善、自己成長を求めて行動しているが、そこには客観的に見て長期的な価値はそれほど無いように思う(主観的な価値はとても大きいと思う)。「部活をやる意味」をテーマにした雑感を沢山読んできたが、個人的には現在の自分の行動理由など適当な屁理屈でいいと思う。過去20数年の人生では現在の自分の行動の意味づけなど全てを終えた後の自分が勝手にしてきた。

勝利という短期目標に向かって全力で足掻いた結果、そのプロセスを経て視界が変化し、当初の自分では辿り着かなかった予想もしない心躍る目的に行きつく。

今までそうしてきたように、無意味に無価値に無機質にまだ見ぬ目的を目的に後1週間全力を尽くそう。そこから数年後の自分やホッケー部の種が生まれるだろう。それこそが自分が東大ホッケー部に居た意味になると信じている。

最後になりますが、これまで関わってくださったホッケー部関連の皆様に感謝申し上げます。OBOGや監督コーチの方々のご支援があったからこそ今日まで活動できました。Bullions2021や練習に来て下さるそれ以前OBの上手い方々がいたからいつまでも満足せず練習し続けられました。Bullions2022で多大な時間を費やしてどうすれば部を良くできるか考えて続けている幹部がいたのでそれが自分の基準となり、楽をしませんでした。Bullions2023で郷中や後輩が明るく話しかけトイメンしてくれたからこそ暗い気持ちで居てもホッケーは楽しくできました。

失敗の多いホッケー人生でしたが、どんなにミスをしても罵声を浴びせられても成長を実感出来なくて腐りそうになっても、腐りかけながらまだまだ上手くなれると信じて試行錯誤し、練習してきました。

残り1試合、チーム全員で最後の瞬間まで楽しんで足掻きましょう。

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