UNIVERSITY OF TOKYO HOCKEY TEAM
東京大学運動会ホッケー部
Est. 1925
2025-06-12
捲土重来
田中 岳斗
唐突な書き出しだが、1年生の時は当時の4年生をすごく遠い存在に感じていた(年齢とか立場的に)。まあ中学に入りたての時は高3のことがもはや立派な大人に見えていたし、環境が変わるタイミングでそう感じるのは割と自然なことなのかもしれない。そんなこんなで僕ももう4年生になり、引退まであと半年を切っている。あまりその実感はない。ホッケーのある生活が自身の感覚に染み付きすぎて、あと6ヶ月でそれが終わると言われてもあまりイメージができない。僕はこの4年間で色んな部の状態を経験してきたと思う。個人的な意見に過ぎないが、今のチームはその4年間と比較してもわりかし良い状態にあると言えるのではないだろうか。最近の部活の雰囲気は結構好きだし、居心地よく感じている。OBさんが今の現役の練習を見たら「緩すぎる」とお怒りになるかもしれないが、みんな楽しそうにホッケーに取り組んでいるし、練習中からいろんなことに挑戦しているのが見えて純粋に面白いなと思う。恐らくだが、手元の強い上級生が引退していきチーム全体に個人能力の需要が生まれたことで、自分で相手を抜いたり自分でシュートまで持ったいったりするみたいな、ボールを持つタイプのスキルをみんなが段々と習得しようとしているんじゃないかなと感じる。ぶっちゃけ去年は「あいつ最近楽しくなさそうだけど、大丈夫かな」とか思うこともあったが、今年はまだそういうのを気にしたことがない。最上級生になって見えづらくなっている部分もあるのかもしれないが、僕の場合は4年生というよりは3年生、なんなら2年生みたいなもんなのに謎に最上級生という立場にいるだけなので、まあおおよそ間違ってはいないと思う。
それはそれとして、立教戦に勝てなかったこと、結局下襷に駒が動いてしまったということから目を背けることはできない。これは、秋リーグまでまだ猶予のある今、向き合わなければならない問題である。ここ最近のチームの調子はよかった。去年はリーグ戦に限らず負けが続いてしまっていたが、今年は東商も双蒼も勝って、練習試合でも負けたのと言えば2回やった学習院との試合のうちの1回くらいだったと記憶している。それもあってチームには少し浮ついた空気感も見られ、拓朗は春リーグまでに一回負けておきたいと話していたが、結局春リーグでは成城戦にも東海戦にも勝つことができていた。東海戦に関しては、SOまで縺れ込まずに勝てる相手だったと言われればそうれそうなのだが、勝ちは勝ちだし、最終的にいい形で勝てたのだから悪くはない結果だったと思う。ただ、立教戦前の1週間くらいの期間、チームは明らかにフワフワとしていた。立教そんなに強くないんじゃねみたいな共通認識が、朧げな輪郭であれど存在してしまっていた気がするし、メンバー表もガチで勝ちを取りに行くというよりかはみんな出して経験を積ませようみたいな雰囲気は少なからずあったように感じる。亘希さんが試合前に「腐っても立教」ということを話していたが、その意味を痛感する結果となった。彼らはエンジョイチームの東海とは違う。個人の手元がそこまで強いわけではない、チームとしてレベルが高いわけではないが、依然として「立教」であることに変わりなかった。
今のチームは、チーム全体で気を引き締めるという、勝ちを積み重ねていく集団であるために必要なことが全然できていない。去年の4年生がチームから抜け、怒る人がいなくなったというのが一番大きな要因だとは思う。ただそもそも、メンバー皆が誰かが怒っている状況に少しずつ慣れ、危機感を覚えるための受容体が麻痺してきてしまっている気がする。名指しで言われれば流石に意識するだろうが、誰かがチーム全体に投げかけた怒りをチーム全体で受け止めるという意識は、個々人にはほぼ残されていないのではないだろうか。拓朗がたまにキレたりしているが、それでも部の雰囲気が変わるのはその場だけで、その後の練習には活かされていないように感じる。下野は多分あんまりそういうキャラじゃないし、僕とか小川とかが言ってもネタになるだけだろうし(それがマズいんだけど)、拓朗が最初で最後の希望といったところであったが、この現状だ。昔からこういう、コミュニティの中心に立って怒るという行為は苦手だった。中高ではバスケをやっていたがそこで怒ったのも、合宿の夕食の時にキャプテンが全体に向けて話しているのにもかかわらず、相変わらず鍋をつついていた1年に注意したのが最初で最後だった気がする。とはいえ、苦手だからといって4年がそういう役目をやらないわけにもいかないし、今のチームの一番見えやすい改善要素だと思う。練習中に雰囲気が緩くなったり、強度が上がりきらなかったりするのも、ここらへんの意識の問題に感じる。4年なんだからキャラとか関係なくチームに対して言えるようになれって話ではあるのだが、今の実力で何かを言っても説得力がないだろうし、なにより僕が自信を持って言えると思えない。割と誰しも気づいていることだとは思うが、僕は恐らく幹部としてはBullions史上一番ホッケーが下手な人物だろう。ポジション内ですら5, 6番手、チーム全体だったら何番手なのか数えるのも億劫みたいな状況だし、こんな実力で意見とかアドバイスとかを発したところで「何言ってんだお前」くらいにしか受け取られない気がする(ここまでではないにしろ、少なからずそういったふうに思われている部分はあるだろう)。確かに、最近の自分のプレーからは成長を感じられる部分がある。こと試合に限っていえば、記憶の範囲ではレバヒは3月以降ミスしていないし、特にプレー中の視野が広がったのは強く感じている。以前は逆サイを見るなんて夢のまた夢であったが、最近は意識せずとも見れるようになってきたし、プレスキャン的なのが上手くなってきたのか間接視野を有効活用できるようになってきたのか、ドリブル中で目線が下を向いている時であっても味方がどこを走っているのかが何となく認識できるようになってきた。そういった成長がある一方、いまだに守備は壊滅的だし、トランジションには弱いし、かきはすぐに抜けている。守備について自分から教えられることはほぼないし、後輩からの質問が自分の苦手な分野だったら他の上級生を召喚して教えてもらわないとやってられない(下野いつもありがとう)。
そんな中、最近ちょっと気がついたというか、考察というかそういういったものがある。それは、僕が上手くなれば多少なりとも危機感を生み出せるんじゃね?ということである。ここでいう危機感とは、チームとしての危機感というよりは、個人の中でそれぞれ生まれるものを指している。人間、怠惰な生き物である。僕が身に染みて理解していることではあるのだが、普通の人はある程度のパワーで頑張れることはあっても、危機感に駆られなければ全力で動こうとしないし、動けない。1年生みたいに「ホッケー始めて1ヶ月」とかのフレッシュな状態であれば、単純なモチベーションだけでも勝手に練習するし上手くなっていくだろうが、2年生、3年生と学年を重ねるうちに否が応でも競技への新鮮さは失われていく。その中でモチベーションを保ち続けるのは難しい気がするし、実際僕も全く保てないタイプだった。周りからプレーについて文句を言われ続けても耳を塞いで自衛し始めるだけだし、結局のところ危機感が生まれるのは自発的に「やばくね?」と感じられた時だと経験的に思う。僕はある意味、その危機感を生み出せるタイプな気がする。1年生の時はちやほやされていた。が、それ以降はずっと、レシーブは止まらない、パスはプッシュですらまともに出せない、めちゃめちゃボールロストする、相手のプレッシャーを嫌がってすぐ背負い始める、みたいなそれはそれは酷いプレーの数々で苦言を呈され続けてきた。それを今の2, 3年生はずっと見てきているし、僕に対する印象はそんなもんだろう。ただ、最近はちょっとずつその印象を覆し始めることができている気がする。まあ依然下手ではあるのだが、昔みたいななぜそれが止まらないのか理解できないレベルのやばすぎるレシーブミスは結構減ったし、プッシュも荒れやすいとはいえ一応は様になっているし、ボールロストは多いもののただ背負うだけじゃなくて次のプレーに繋がるような積極的なアクションを取れるようになってきた。特にレシーブに関しては、恐らくこの部活のほぼ全員が僕のことを下に見てきただろうし、その僕が止められるようになってきたとなれば、レシーブがそこまで得意でない人は少しは焦燥感を持つと思う。以前の僕は自分でドリブルで突っ切るみたいなことを試合でそこまでやろうとしていなかったから比較対象ですらなかっただろうが、現段階で僕よりもドリブルで相手を抜けないオフェンシブなプレーヤーも危機感を持つだろう。レバヒに至っては今のチームだったらだいぶ上手い寄りだと思う。実戦的に考えればなんなら一番うまいかもしれない。普段の練習中からやると体が痛すぎてやばいので試合くらいでしかやらないが、転けながら打てば割とどの体勢からでもレバヒに持っていけるし、最近は浮かすか浮かさないかの使い分けもできるようになってきている。というわけで、最上級生なのに最低レベルに下手というのが逆に功を奏し、周りからしたら下に見ていたプレイヤーがちょっと上手くなってきててヤバい、みたいな危機感を煽れる立場にいる気がする。加えて言えば、今の僕の実力からちょっと上手くなった位のレベルのプレーヤーの方が、めちゃくちゃ上手い人が怒るのよりもチームやプレーヤーに与える影響の質はよくなる気がする。批判する気は一切ないということを理解した上で読んでほしいのだが、去年の4年生は実力的にも立場的にも強すぎたように感じる。4年生が後輩に怒る場合、4年生が正しい上で存在が強すぎるゆえに怒られた側からすると何の反論もなく、メンタルが削られるだけということの方が多い状況だった気がする。メンタルが健康的な時期であれば、プレーに関して注意されたら「気をつけよう」という気持ちにもなるのだが、そのメンタルが年中続くかといえばそうではない。夏オフ明けくらいからは改善されていた気がするが、去年の春リーグ前からリーグ戦期間にかけては何かとピリピリとして、他人の良いプレーを褒めることよりも悪いプレーを咎める発言の方が圧倒的に多かった気がする。恐らくではあるが、めっちゃ上手い人よりも、ある程度上手いかなくらいの人からプレーについて言われた方が響くと思うし、意識的に気をつけるようになる気がする。
僕は2年生に対してであっても、「公式戦ではレバヒ打てないんだから打つな」とか「ミスるんだからドリブルするな」とか言いたくないし、それが良い結果をもたらすとは思えない。僕自身がそういう類のことを言われる立場だったから分かる話でもあるのだが、こういった発言が飛んでくるとホッケーに対するモチベーションは0になる。かなり確信を持って言えることであるが、「〜するな」という言葉で「それなら頑張って練習して見返そう」となる人は稀有だと思う。というかそんなメンタリティを持っている人は大抵の場合、文句も寄せ付けないレベルでとっくに上手くなっているはずである。僕自身、1年生の時は11, 12月くらいに練習するまでレバヒはおろかヒットすらまともに打てず、パスも下手だったことも相まって、相手を抜けたとしても最終的にどこかでボールを失うことがほとんどだったのだが、周りが良かった部分を褒めてくれたことでやる気が湧いていたし、ボールを手放す最後の瞬間までいいプレーをできるようにシュートも練習しようという気持ちになり、当時の4年が引退するまでにはレバヒが一応打てるようになっていた。まあしかし、これからの秋リーグでボールをめっちゃ取られたり、めっちゃミスられたりしたら困るわけで、それを見てみぬふりというか放っておくはできない。でも、もしそういう状況になったら「〜するな」という発言をするか、そのプレーヤーを試合に出さないかくらいの選択肢がないということは薄々気がついている。それならば今からプレイヤー全員に苦手なことにも向き合って改善していってもらう必要があるし、僕自身が上手くなるのと同時に、僕が教えられる範囲であればできる限り後輩の育成にも貢献していかなければならない。何なら僕が一番部に貢献できるのはこの部分な気がする。時折なのだが、育成のプレーヤーに代表がアドバイスする時にちょっとしたズレを感じることがある。というのも上手いプレイヤーはあんまり運動能力、運動神経の差を考えられていない、というかそれで片付けないために他の原因で頑張って説明しているように見える。アドバイスというのはその人の能力で解決可能な内容として現実的に考え伝えるべきであると思うが、それができていないと感じることがあるのだ。ぶっちゃけ育成のプレイヤーが相手に抜かれる原因は、フットワークが足りないってのが半分くらいを占めているし、代表ならカバーできるレベルのズレでも運動能力的にキツいところがある。もちろん僕含め守備力自体が足りていないという事実は完全に認めるし、否定するつもりはさらさらないのだが、僕自身そういった運動能力面での不条理を感じることがあるし、こういう類の悩みもそこらへんの上級生より理解してあげられるところはあると思う。育成のプレーヤーの悩みは僕が通ってきた・抜け出せていない領域と大体重なるし、そこから脱却する助けになってあげたいと感じるのは普通のことだろう。前述の通り、そういった存在になるためにはそれ相応の技術と説得力を身につける必要がある。4年にもなってリーグ戦未得点とかいう最高に不名誉な記録もそろそろ消し飛ばしたいし、自分の意思を持ってチームに関わるためにもそれを通すだけの実力は求められるだろう。
来週末の武蔵戦はおそらく、怪我人が多いこともあって万全の態勢で挑むことは難しいかもしれない。しかし、「不撓」とかいうワードをスローガンに掲げ、今年度の目標として秋リーグでの一部昇格を謳うのであれば、怪我とかいう逆境は踏み越えなければならないし、それは初めの一歩に過ぎないはずだ。3年連続で先輩の悔し涙での引退を見届けてきたが、チームの喜びと共に去るためにも、今度の試合はしっかりとした実力差を見せて勝ち切りたい。