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2019-10-02

払暁

崎山 栞里

やりたいこと、思い描く理想と、自分の実力。

かける想いは同じなのに、選手じゃないというその一点が途方もない壁に思えた。
手探りで目の前のものをなんとかするしかなかったから、沢山動画を見たし気が遠くなるような回数笛を吹いた(そして怒られた)し今年パソコンに向かった時間は多分部内トップクラスに長いはず。それでも。
もがいても一向に暁闇は明けず、立っているのがやっとな時間の方がずっと長かった。

…と思い返していると暗い雑感になってしまうのでとりあえず置いておく。
季節は巡り、気づけばラストシーズン、なんと明日からはもう10月。感傷に浸るにはまだ早すぎるけど、柄にもなくセンチメンタルな文章がぽろりぽろりとこぼれてくるこの秋の夜半。
振り返ってみれば、紆余曲折を経て一つの道を切り拓くことはできたと思っている。


私は勝つための分析をもっと面白くしたかった。スタッフでも審判ができるという先例を作りたかった。
思い返せば折れたほうがベターな場面でさえ馬鹿みたく頑固に貫いてきたと思う。

毎日毎日グラウンドを走って笛を吹いていれば、血が滲むほどに唇を噛む日も思わずニコニコが止まらない日もあった。寝る前に思い出すのは大抵自分の誤審のせいで流れを変えてしまったトラウマの試合とか練習中にめちゃくちゃ怒られたシーンばかりだけど、最近は上手くいったシーンを思い出してぐっすり眠れる日もちょっとだけ増えた。

せっかく分析の人になれたのに結果出せなくて自分の無力に苛立った日も、「あの分析に応用したら面白いかも~」なんて想像しては涎垂らしてサッカー雑誌の分析特集号を読み漁ってて半日経ってた日もあった。天職だとすら思うくらいには好きだし極めたい。形になるのが遅すぎたかな。

本当に苦しくて楽しくて夢中で駆け抜けてきたけれど、実は自分には分不相応なことなのかなともずっと思っていた。正直なところ、私が諦めたら、新しい道を選ぼうとして結局諦めた人間がいたという先例を作ってしまったら絶対にダメだと思うようになってから、背負うものの重さに怖くて止まれなくなったというのは多少ある。
でもそれ以上に、みんなが投資してくれた機会や時間に報いたかった。私が享受していた機会は決して当たり前のものじゃなかったから。


憧れさせてくれた先輩に、小さなことを褒めてくれた先輩に、本気の厳しい言葉をくれた先輩に。

自他共に認めるうんこ審判の私にアドバイスや文句や罵声(?)をくれる後輩に、拙い話を真面目に聞いてくれた後輩に、癒しと学びをたくさんくれた後輩に。

人の士気ブチあげるのが上手になった同期に、すすんで重荷を背負っていく頑張り屋の同期に、いつも的確なアドバイスをくれる同期に、時々無茶振りだけど親身な同期に、凹んでる私に「前を向け」って言った同期に。

関わってくれた全ての人に感謝を。ずっと恩返しがしたかった。

なにも直接手を貸してくれた事だけを言っているわけじゃない。何気ない会話、興味を持ってくれたこと、プレイヤーでも完全なスタッフでもないこの奇妙な在り方をただ認めてくれること、それで十分だった。


少しだけ分析の話をする。
分析は一人でできるものではない。今年になって分析班や幹部をはじめとして色々な人が今まで以上に知恵と力とを貸してくれて、東大ホッケー部において分析は確実にいい方向に向かっていると言える。そして変えた当事者は間違いなく自分達だという確かな手応えも。
日の出を見る前に引退するのはちょっと悔しいとか、あと1年もあるのが羨ましいとか、さっさと隠居しなきゃとか複雑な気持ちだけど、この先後輩たちが面白いものを考えて実行に移してくれると信じて託す。すごく楽しみにしてるので時々話聞かせてね。


さて、役割を果たすというよりは半ば趣味に走った(そして周りに付き合わせた)ような4年間だったけれど、それとは別にもうひとつだけやりたいことがある。

Bullions2019でもう一度1部で勝つこと。一度で満足できるかは知らないけど。

私はグラウンドに選手やコーチやベンチスタッフとして立つことはできないが、勝ちたい気持ちに遜色はないと自信を持って言える。このチームで勝ちたいし、後輩たちにこの1部の舞台を絶対に残したい。
私がチームに還元できる価値は情報を的確に詰め込んだ対策動画、分析のデータの取り方から見せ方まで工夫すること、あとは普段の練習でできる限り質の高いジャッジを追求するくらいのもの。
やることが沢山あるって幸せだ。


見上げる私の眼前に暁闇はすでになく、曙色の空の下で前には憧れた先輩たちの背中、振り向けば可愛い後輩たち、並ぶのはバカ話しながら共に歩いた同期。
どうせなら一発ぶちかまして勝って泣いて笑おう。
私は私の戦場で戦い、最強の同期たちと肩を並べる。背中を預けるには若干頼りないかもしれないけど、手を貸せるところまでは来た。

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